全国研究集会分科会報告

 第70回新医協全国研究集会 薬学関連領域分科会報告

日時:2017年11月19日(日)

会場:林野会館

 

“「今の日本」をリアルに見つめ、考え、どう行動すべきか”

 

講 演  太田 秀氏 「何を見つめ、考え、行動したか」(仮題)

 

報 告 ・精神疾患患者理解の共有化と薬剤師の「役割」(第76報)     (石田 悟)

 

・種痘は西洋医学でしょうか?-漢方医学排斥の背景を探る    (橋本紀代子)

 

薬剤師は人工頭脳(AI)の発展で「いらなくなる」ともみられているが、いいのですか?!                        (寺岡章雄)

 

・高額薬価問題―医薬品マーケティングの視点から(仮題)      (高田満雄)

 

戦争と薬学                                  (田中秀明)

   731部隊戦跡視察報告(ポスター)                  (宮地典子 白井千菜)

 

<報 告> 

 

「今の日本」をリアルに見つめ、考え、どう行動するかをテーマに、薬剤活動の先駆者の太田秀先生の講演と一般演題5つ、731部隊見学ポスターと盛りだくさんの内容で行われ、例年より多い25名の参加者で討論しました。

 

88歳の太田先生は大変お元気で、1960年代から80年代の薬剤師活動を以下の4つの視点で話された。①今の医薬分業の発端は、薬剤師の調剤に対する社会評価としての技術料の獲得であり、②安全性を軽視した薬害スモン事件での地裁での弁論、③グロンサンなど大衆薬のまやかしから薬の二面性を解明、④医薬品の正しい評価を求め「薬の常識」などの出版これらは今でも変わらず通用する内容だと気づかされた。

 

薬学教育内容への疑問から「薬学を愛するものの会」、「若い薬剤師の会」に加わり、「薬とはなんぞや」と熱く語った情熱、ロマン。しかしこれらの活動が引き継がれなかったことが、私は残念でならない。

 

一般報告は、診断名に疑問を感じ薬剤師の関与で「診断、治療が的確化」された事例(石田)、伝統医学が西洋医学におしやられた経過(橋本)、高薬価薬のからくり(高田)、軍隊と薬剤師の関係を調べた貴重な資料の紹介(田中)、IT化の中での薬剤師職能は今後どう変化するのか(寺岡)など多岐に渡る内容でした。

 

討論では、患者の視点からすれば、OTC薬を含めて健康管理であり、医療制度の中にOTC薬を位置づけていないことが問題。薬剤師が方向性を打ち出し闘うべきの発言にガッテン「そうだ!!」。

 

薬をめぐる諸課題が散乱するなかで、問題の本質をとらえ、どこに足場を置き奮闘するのか。「若さは年齢ではなく、常に社会を批判的に見る目を持っているかにある」の太田先生の言葉に、忍び寄る老いを感じる私は大いに励まされました。

(M.T)

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69回新医協全国研究集会 薬学関連領域分科会

2016年11月 日

於:林野会館

 

「薬は誰のもの?」

薬をめぐって、高薬価の問題や、多剤処方、残薬問題、週刊誌情報等、社会的話題に事欠かない中、信頼できる情報の提供や、薬の適切な使用をすすめるために、「薬は誰のもの?」という視点から討議を深めた。

 

  1. 薬をとりまく情勢

 

保険財政を急激に圧迫するとして話題を呼んでいる超高薬価薬の出現をはじめ、不透明な薬価制度の問題について、協立医師協同組合の高田満雄薬剤師が報告。医療費高騰の主要な原因が新薬の高薬価と市場のマーケティングによる処方の新薬シフトにあることを報告した。医薬品の選択・使用が事実上メーカーに支配されている現状が議論になった。

 

2.訪問診療の現場から

 

沖山明彦医師からは、高層住宅に住む高齢者中心の40余名の訪問診療を通じ、多数の疾患を併発し、多科の医師のもとで多剤処方を余儀なくされている実状が報告され、関係職種間での連携による対応の必要性が示された。

 

3.訪問看護の現場から

 

訪問看護ステーションに勤務する竹村看護師からは、在宅における服薬管理の問題点が報告された。処方薬を確実に服用してもらうことが在宅療養を継続する鍵であり、様々な困難をかかえる患者さんの服薬サポートに苦労している実状が紹介され、薬の作用や飲み方も理解できない患者さんに対する納得の医療とは何だろうとの疑問が投げかけられた。

 

4.薬局でのポリファーマシーの実情

 

木内知子薬剤師からは、健忘が強い患者さんへの多数の診療科による多剤併用例への対応、朝食後の薬だけで17種類の薬が処方されている多剤処方の事例等が紹介され、このようなポリファーマシーの実態にどのように対応したらよいかと問いかけた。

 

5.薬のエビデンスをめぐって

 

医薬政策を研究する寺岡章雄さんは、「エビデンスが得られた」とトピックス報道される根拠の曖昧さについて、糖尿病治療薬「ビクトーザ注」とSGLT2阻害剤の臨床試験結果を示し、今こそ薬剤師は本来の職務である医薬品評価・医薬品情報活動への取り組みを強めるべきではないだろうかと投げかけた。

 

6.中耳炎を繰り返した一例の薬歴を通じて

 

保育園の理事を務める橋本紀代子薬剤師は、中耳炎を繰り返し、薬漬け、抗生物質漬けに至っている小児の事例を通じ、食事や薬による「リーキーガット(腸の透過性亢進)」の促進に触れ、安心、安全な食物の提供、食生活の見直しなど、子供たちの成長や発達を保証するために大人がすべきことを問いかけた。

 

7.暴力を伴う知的障碍者への処方設計経験から

 

精神科を専門とする石田 悟薬剤師は、処方設計に関わった知的障碍者2例を紹介し、易怒、興奮などの問題行動に対する治療の考え方、薬物治療のみならず、患者を理解すること、声かけをはじめとする関わりの重要さを示し、「処方の見直しは引き算から」とアドバイスされた。

 

以上、多科受診により多剤処方をやむなくされている等、薬が患者のものになっていない現状がそれぞれの立場から報告され、薬剤師こそが、医師と患者の仲介の立場にあり、患者が主張できるよう医師への橋渡しをする、手先の方法の前に、患者の人権、患者の権利という根本に立ち返って「このような多剤を続けてよいのか」と問いかける姿勢や、患者・家族を中心にしたカンファレンスの必要性、「命に関わる重要な薬はどれか?」という視点から処方の見直しを主治医に迫る必要がある等、貴重な論議が行われた。  

 

厚生労働省は、「健康サポート薬局」や「かかりつけ薬剤師」を制度化したが、薬剤師自らが、「健康とは?薬とは?」との根本的な問いかけをもとに、住民や患者の立場に立って基本姿勢や技術のあり方を具体的に示す必要があることを確認した。